ポジティブプラス 16

夏目さんとの飲み会を早々に終えると、私はその足でユカリさんのマンションに向かった。

部屋に入り、私が言った第一声は「ゴチになりまーす!」だった。

「なになに?」

ユカリさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。私は撮影した画像をユカリさんに見せた。

「え? 撮ったの?」

そう言いながらユカリさんはその画像を見て納得した。

「でも、これってちょっとやりすぎじゃない?」

「私もそう思いましたけど、こうしないと賭けが成立しないと思ったから。すぐ消しますよ」

私はユカリさんの前で、その画像を削除した。誰かに見られたら大変だ。

「そっか。じゃあ、あのあと二人で連絡取り合って、ゴハン食べに行ったんだ」

「やることが早いですよね、夏目さん」

「ほんと」

そして私はもう一つの情報をユカリさんに伝えた。登坂さんと荒川さんが出来てしまったという話だ。

「ええ! マジで?」

私と同じ反応をした。

「ユカリさんも罪ですよね。あの二人に仕事をさせたから、こうなっちゃったんですよ」

「そんなこと言ったって……」

「どうするんですか? たまたま夏目さんが見つけたから大事には至りませんでしたけど、会社内の他の部署の人に知られたら噂が広まりますよ」

営業企画部は只今、廃止になるという危機に置かれている。変な噂が出たら、それこそ口実にされて廃止になることが現実味を帯びてくる。このことは好ましくない。

「どうしよう……放っといていいのかな?」

「レズ自体は自由ですけど、会社内でそれをするのはマズいと思いますよ。誰かに見られたら噂が広まりますよ。ユカリさんの立場も危なくなってくると思います」

「そうなのよね」

「やんわりと釘を刺しておいた方がいいんじゃないですか?」

「その役を私がやるの?」

ユカリさん、嫌そうな顔だ。

「私じゃマズいですよ。やっぱり上司が言うのが一番いいと思います」

小さく溜め息をついて、ユカリさんは「そうよね」と言った。

「ウチの部署もなんだか、ドロドロしてきましたね」

楽しむかのように私は笑みを浮かべた。

「なにのんきなこと言ってんのよ、大ごとになったら私が飛ばされるんだからね」

ユカリさんは口を尖らせる。

「はい、すいません」

ユカリさんは独身なので、飛ばされる可能性は高い。

「とにかく、私からそれとなく言っておくわ」

しかし、このことで私にとんだ災難が降りかかってくるとは夢に思わなかった。

それは翌々日のことだった。登坂さんが廊下で私に近寄ってきて耳打ちした。

「花沢さん、今日仕事が終わった後、ちょっと話があるんだけど、残ってくれる?」

顔では笑っていたが、目は笑っていなかった。私は何か言い知れぬ恐怖を感じた。

なんだろう……?

その日、全員が引き上げたのが、午後6時近かった。そこに残ったのは、登坂さんと荒川さんと私だけだった。

それ以外の人が帰っていくと、登坂さんは立ち上がり、ミーティングルームを顎でしゃくって、「ちょっと来て」と私に言った。

いきなり心臓はバクバクだ。完全に怒っている。

そこには荒川さんも入ってきた。ドアを閉めたのは荒川さんだった。私は登坂さんと荒川さんに挟まれた。

「私たちのこと部長にチクったの、アンタでしょ?」

登坂さんは言った。目は私を睨みつけていた。

「え? なんのことですか?」

私は解かっている。ユカリさんが登坂さんに一言注意したのだ。登坂さんはそれを根に持っているようだ。呼び出されたのはそのことではないかと、薄々は感じていた。

「とぼけないでよ。部長と仲良しなのは知ってるのよ。アンタしかいないじゃない」

登坂さんは腕組をして、私に凄んだ。

「花沢さんこそ、部長と出来てるんじゃないんですか?」

後ろで荒川さんが言った。彼女もいつもと違う。私に相当な反感を持っているようだ。

「そんな、何言ってるの、千夏ちゃん」

私の顔は引きつっていた。2対1では形勢的に不利だ。私もいきなりだったので、言い返す言葉を用意していない。これでは二人に好きなようにされてしまう。

「今まで私がどれだけアンタのフォローをしてきたと思ってるの? それを仇で返すなんてサイテーね」

「私は何も言ってません。本当です」

「まだとぼけてんの。いいわよ、もう。そんなことどうでも」

登坂さんは不気味な笑みを顔に張り付かせて、私の顎を掴んだ。

そして、いきなりキスしてきたのだ。突然だったので私もどうすることも出来ない。後ろからは荒川さんが私の体を羽交い絞めにしている。私は首を左右に振って、逃れようともがいた。

それでも、体の自由を奪われているので、逃げるのにも限界がある。登坂さんはまるで攻めるように、キスを続けている。荒川さんは両脇から私の胸を鷲掴みにしてくる。

「やめ……、くださ」

必死に抵抗を試みるが、だんだんと私は感じてきてしまった。登坂さんはキスをしながら、私のブラウスのボタンを外していった。胸元が開くと、今度は荒川さんが、ブラのカップの中に強引に手を入れてきて、私の乳首をまさぐった。

「先輩、一緒に楽しみましょうよ」

「悪いようにはしないわよ」

登坂さんと荒川さん口々に言った。私はキスをされながら、乳首を触られているので、ますます感じてきた。

「アンタも仲間に入りたかったんでしょ」

登坂さんは私の乳首に舌をあてて転がした。

「あっ、だめ」

つい私は喘ぎ声を出してしまった。私は登坂さんによって、テーブルの上に押し倒された。

「いや、やめてください」

そう言った私の言葉も虚しく、体から力が抜けていった。もはや抵抗する意思もなくしていた。登坂さんは私の胸を攻めて、荒川さんは私にキスをしてきた。舌を使った濃厚なキスだった。

なに、この子。キスがメチャクチャうまいわ。舌を絡ませて、いやらしいキスをしてくる。唇から内臓に快感が走るようだった。やがて、荒川さんも乳首の愛撫に移った。

右の乳首と左の乳首の両方を責められた。こんな感覚は初めてだった。私も気分が高まり、いやらしい声をあげてしまう。

「ああ……」

目を閉じて感じていると、カシャー! という音が聞こえた。「ばっちりです」と荒川さんが言った。

なんのことか分からず私は目を開けた。荒川さんがスマホを片手に持って笑っている。いつの間にか登坂さんも愛撫をやめていた。

「ほら、先輩、綺麗に撮れてますよ」

その画像を私に向けた。そこには私が登坂さんに愛撫をされて、感じているシーンがバッチリ写っていた。登坂さんの顔は伏せているので見えない。

私は絶句した。

「いい? 今度チクったら、どうなるか分かってるわね。それと、今後は私たちに逆らわないことね」

「せんぱーい、ムカつくんですよねー」

荒川さんは笑いながら言った。

そのまま二人はミーティングルームを出て行った。

一人残された私は、床に崩れて泣き伏した。涙が止まらなかった。

二人にレイプまがいのことをされたのもショックだったが、荒川さんにまで嫌われていることにも衝撃を受けた。自分では可愛がっているつもりだったのに……。いい子だと思っていたのに……。

立ち上がることが出来ずに、私は号泣した。

もう、何もかもが嫌になった。私はこれからどうすればいいのだろう。あの写真をネットで拡散されたら、私は生きていけない。こんなこと誰にも相談できない。この会社を辞めるしかないのだ。

明日からあの二人による執拗な嫌がらせが始まるだろう。今度は何をしてくるか分かったものではない。もう会社に来るのは嫌だ。せっかくいい職場になってきたのに……。

そう思うと、悔しくて涙が止まらなかった。

するとまた、カチャ、っとドアが開いた。

「だれ?」

入ってきたのは、ユカリさんだった。

「ユカリさん……」

私は泣きはらした目でユカリさんを見た。

「アヤ?」

ただごとではないと察したユカリさんは顔色を変えて、私の肩を掴んだ。

「どうしたの? なにがあったの? 言いなさい! アヤ」

私は泣き崩れてしまって、答えることが出来なかった。でも、ユカリさんが来てくれて、とても安心できた。ユカリさんに身を預けて私は泣き続けた。ユカリさんが会社に戻ってきたのは、私に電話を掛けても、ぜんぜん出ないから、まだ会社かな? と思って戻ってきたらしい。

どれだけ時間が経っただろう。泣き止んだ私は、ここで起きたことを全て話した。

「赦さない! 絶対に赦さない」

ユカリさんは怒りを露わにして言った。

「私のアヤにこんなことをするなんて」

そう言って、ユカリさんはテーブルを、バン! と叩いた。

次の日、私は会社を休んだ。それはユカリさんの指示だった。「有給にしておくから」と言ってくれた。



「登坂さん、荒川さん、ちょっと来て」

堂島部長は朝、出勤するなり言った。

三人はミーティングルームに入っていった。取り残された他の社員は呆然としている。夏目さんは小声で、「なにかあったの?」と誰にともなく言った。堂島部長の迫力に圧倒されていた。

「ブラインドを下ろしなさい」

堂島部長の指示に、登坂さんと荒川さんは言う通りにした。外からは見えなくなった。

すると、いきなり堂島部長は登坂さんの顔に往復ビンタを喰らわせた。

「キャ!」と声があがった。

次は荒川さんだった。二人とも髪を振り乱して、頬を押さえて、その場に倒れ込んだ。

「二人とも、なんで殴られたか、分かってるわよね?」

低く、ドスの効いた声が登坂さんの耳に響いた。堂島部長は登坂さんの髪を掴んで、顔を上げさせた。

「あなた、私を本気で怒らせたわね」

そう言って、また登坂さんの頬を殴りつけた。そして、横にいた荒川さんの顔を睨む。

「いい? あなたたちがやったことは犯罪よ。荒川さん、携帯を出しなさい」

荒川さんは一瞬躊躇った。

「早く!」

堂島部長がそう叫ぶと、恐る恐るポケットから携帯を出して、堂島部長に差し出した。それを受け取った堂島部長は、画面を操作して、昨日撮影した花沢さんの裸が写った画像を表示させて、二人に突き付けた。

「これは立派な犯罪の証拠よ。私があなたたちを刑事告発すれば、あなたたちは逮捕されるのよ。わかるわよね」

荒川さんは目を見開いた。登坂さんの顔も恐怖に染まった。

「確かに花沢さんは、あなたたちのことを私に報告したわ。でもね、それは陥れようとしたんじゃないの。あなたたちが愛し合ってるなら、むしろ応援しようと思っていたのよ。でも、会社内でそんなことをして、もし他の部署の人に見られたら、それこそ写真にでも撮られたら困るでしょ二人とも。それを心配して私は登坂さんに注意したのよ。会社内ではやめておきなさいって」

「そうだったんですか……」

顔をあげて荒川さんが言った。荒川さんは登坂さんに目をやった。登坂さんは黙ったまま、床を見つめていた。

「刑事告発はしないわ。その代わり、今すぐ退職届を書きなさい」

堂島部長がそう言うと、登坂さんは初めて顔を上げた。

「クビ……ですか?」

「捕まるよりはマシでしょ。花沢さんはね、もう会社に来るのは嫌だって言ってるの。死にたいとも言ってたわ。彼女にそれだけの傷を負わせたんだから、その罪は重いわよ。彼女を暴行して恐喝したんだからね。やってることはヤクザと一緒じゃない」

登坂さんはうなだれた。

堂島部長は自分のバッグの中から、退職届を2枚取り出してテーブルに置いた。

「ここでこれを書いたら、私に提出して。そのあとで各自デスクを片づけて、今日中にここから出ていってちょうだい」

登坂さんと、荒川さんは思わぬ形で、会社を去ることになったのだ。

6人いた部署から2人いなくなって、部屋の中はガランとしてしまった。もちろん堂島部長は荒川さんの携帯から、花沢さんの画像を削除することを忘れなかった。


つづく・・・



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# by sousaku63 | 2017-03-23 11:54 | ポジティブプラス | Comments(0)

ポジティブプラス 15

私は目の前の、白く美しいバストにしばし釘付けになった。

手で優しく包んでみる。強く掴むと壊れそうなその肌は、枕元のシェードランプの光を受けて、より白く輝いていた。そこに唇をつけていく。

キスをしながら、少しずつ乳首に近づいていくたびに、ユカリさんの体が震えた。早くそれを口に含みたい衝動を抑えて、私はその乳首を指先で転がして弄んだ。

「あ……」

ユカリさんの口から、かすかな声が洩れ出た。

「舐めていい?」

私がそう問いかけると、ユカリさんは、当たり前のことを訊くなと言わんばかりに、小刻みに頷いた。

「アヤの……したいようにして……」

まるで、うなされているみたいに、ユカリさんは言った。

私はその乳首を唇の先でついばんだ。ユカリさんは体をビクンと反応させる。

「あ……ステキ……」

徐々にキスを繰り返して、口に含み舌で舐めていく。ユカリさんの口から、喘ぎ声が吐かれる。私の口の中で、ユカリさんの乳首が固くなっていく感覚が、とても淫らだった。

会社ではそんな一面はおくびにも出さず、真剣な顔をして仕事をしているユカリさんの体が、今は私の手の中にある。それを思うと、より興奮を掻き立てられた。あの堂島部長の淫靡な貌を、私だけが知っているのだ。その優越感はハンパない。

ユカリさんの乳房を舐めながら、上目遣いに見上げる。目を閉じて、感じている顔がエロティックだった。細い首が艶めかしい。

もう片方の乳房も口に含んで、舐めていく。右手の指で、舐めていない方の乳首を転がした。両方の胸を責められているユカリさんは、とても幸せそうに私に身を任せていた。

やっぱりユカリさんは素敵な人だ。私はつくづく思った。

私は胸の愛撫をやめて、不意にユカリさんにキスしたくなった。体を起こして、ユカリさんの唇に吸い付いた。舌を絡め合って、ユカリさんとねっとりとした口づけを愉しむ。

「ユカリさん、大好き。すごく好き」

「どうしたの? 急に」

私はユカリさんの上に乗って、胸と胸を合わせた。そのままユカリさんに抱き付いて、じっとしていると、体に温もりが伝わってきて温かかった。

「もういいの? 最後までしないの?」

ユカリさんの優しい声が耳元で聞こえた。

「うん、もう、十分。あとは次回にとっとく」

変な言い回しに、ユカリさんは笑った。

「これって、とっとくもんなの?」

「もう、お腹いっぱい」

ユカリさんの体を愛撫できたことで、私は十分に満たされた。ユカリさんはクスクス笑っている。

「じゃあ、今度は私が味見しちゃおうかな」

ユカリさんは私の背中に手を回して、ブラのホックをはずした。そうされて、私は自分が下着を着けたままだということに気付いた。締め付けられていた感じがなくなると、私は開放感を感じて、またドキドキしてきた。

ユカリさんは私と体勢を入れ替わるようにして、私を下に組み敷いた。上から見られると、また違った色気がある。まずは定番のキスだ。ユカリさんの柔らかい舌が、私の舌を弄ぶ。

そして、首筋にキスされた。柔らかい唇を首筋に当てられる感覚はたまらなく感じた。それだけでイってしまいそうだった。

「あ……気持ちいい……」

「気持ちいいでしょ?」

「ユカリさんも、気持ちよかったの?」

「うん、すごく感じたよ。アヤが上手だから」

ユカリさんは私の首筋を優しく舐めた。耳にユカリさんの息遣いが聞こえてくる。そして、ユカリさんの乳首が私の胸をくすぐった。女に愛撫されると、こういう感じなんだと初めて知った。

キスをしながら、だんだんと下に下がっていく。ユカリさんの手で私の乳房は包まれていた。そうされると、とても安堵感を覚えた。年上のユカリさんにリードされることが、こんなに幸せだなんて思わなかった。本当に好きな人に愛撫されると、とても感じる。

そして、愛されてる感が伝わってくるのが嬉しい。私が求めていたものはこれだったのだ。ユカリさんにリードしてもらいたい。この抱かれている感がたまらない。私はユカリさんのものなのだということを、体で感じられる。

ユカリさんが私の乳首を口に含んだ。その舌触りで、体に電流が走るようだった。ユカリさんも興奮しているのが分かる。

「きれい……、ホントにきれいよ。アヤの体。あー、ステキ。たまらない」

私もたまらない。こんなに感じるセックスは今までに経験がなかった。女性の愛撫は優しくて繊細だ。ハマりそうだ。

ユカリさんは私の両方の乳房を舐め尽すと口を開いた。

「私は下も食べたいな。いい?」

「どうぞ。残さず食べてね」

ユカリさんはクスリと笑う。

私の太ももに少しだけ、舌を這わせると、ゆっくりと脚を広げた。ユカリさんはその間に顔を入れた。私の恥ずかしい部分をユカリさんはじっくりと眺めている。自分でも普段、あまり見る所ではないが、ユカリさんに見られると、不思議と恥ずかしさを感じない。むしろ嬉しくて、それだけで股間が濡れてくる感覚だった。

「ああ、たまらないわ。舐めていーい?」

もう、いちいち訊かないで。好きにすればいいのに。っていうか、舐めないで、なんて言うわけないじゃん。

「ダメ、って言ったら舐めないの?」

「舐める」

ユカリさんは私のクレバスに舌を入れてきた。愛液を救うようにして舐められているのが分かる。

「ああ……」

私は大きく声を出した。快感の波が襲ってきて、自分でも恥ずかしいくらいに、自然に声が出てしまう。こんなにされたら壊れそうだ。

股間から体の中を通って、快感が突き抜ける感じだ。ユカリさん、上手にクリトリスに舌をあててくる。

あーヤバい、イきそうだ。私もそんなに経験豊富ではない。こんな快感は初めてだ。

「ああ! ダメ、あーイきそ、ああ……」

私の体から力が抜けた。ユカリさんの愛撫で、あっけなくイってしまった。それは情けないほど、あっけなかった。少し舐められただけなのに。

「イったの?」

「ごめんなさい……気持ちよくて……」

「ううん、可愛かったよ。私でイってくれたのね」

ユカリさんは私の顔に唇を寄せてきて、そのままキスしてくれた。

「ユカリさんで、イきたかったの」

「本当? うれしい」

またキスだ。そして二人で微笑み合う。

「やっと一つになれたね」

「そうだね、しあわせだね」

「うん、しあわせ」

ユカリさんは私の上から降りて、並んで横になって、掛布団をかけた。

「ねえ、訊いていい?」

しばらく沈黙してから、ユカリさんが言った。

「なに?」

「夏目さんと貫井さんが、どうして合うの?」

なんだ、その話か。せっかく余韻に浸ってるのに。一気に興ざめだわ。ユカリさん空気読めてない。

「ほら、夏目さんて、なんとなくエッチそうじゃないですか」

「うん、それは分かるけど、なんで貫井さんと合うの? 二人ともレズってこと?」

いかん。それを言うと、貫井さんがそっちだとばれてしまって、私が、なぜそれを知ってるか、ということに話が発展する。貫井さんとは何でもないと言っている手前、それを知っているというと、話がややこしくなってくる。

「だから、夏目さんが、あの綺麗系の貫井さんを見て、どう思うか、っていうのが楽しみで。なんか口説きそうな気がするの」

「それだって、夏目さんがレズでなければ、口説いたりしないでしょ?」

「私が思うに、夏目さんは両刀使いですよ」

「そうぉ? アヤの考えすぎじゃない? ただ話を面白く持ってってるだけじゃないの?」

「そう、かな。じゃ、賭けましょうか? 私は、二人は出来ちゃう方に賭けます」

「いいわよ、じゃ、私は出来ない方ね」

なんだか変な展開になってしまった。

「何を賭けるの?」

「焼肉!」

「おっけー」

と、なってしまったが、大丈夫だろうか? あとで自分の財布を見ておこう。

それから一週間経ってから、今度は貫井さんが東京本社に出向いてきた。浜松の店で出すコーヒーのテイストをチェックするためだ。我が社で全国展開している珈琲貴族で出しているコーヒーは、地域によって味が違う。その地域で好まれる苦さになっているのだ。

そのテイストチェックをするために、貫井さん上京してもらった。コーヒーの味は売上を左右するので、結構、重要な仕事になるのだ。このテイストチェックは本社でなければ出来ない。コーヒーの機械やサンプルを持って、地方に出向くことはちょっと大変なので。

そして今回は夏目さんが初めて貫井さんと対面する日でもあった。私が貫井さんと会うわけではないが、それがとても楽しみだった。

午前11時、少し前に一階のインフォメーションから内線が入った。貫井さんが来社したらしい。それを聞くと、ユカリさんと夏目さんは一階にお迎えに行った。すでにテイストチェックの準備はテイストルームに出来ている。

テイストチェックに携わる社員は専門の人たちだった。その部署の全員がコーヒーマイスターの資格を持っている。その人たちと一緒にテイストチェックをすることになる。かなり重要な役どころなのだが、浜松のホテルから訪れたのは、貫井さん一人だけだった。

ユカリさんと夏目さんは、貫井さんをテイストルームに案内した。

静岡県内にも珈琲貴族は何店舗かある。そこで使われている豆のサンプルも用意されていた。同じ豆でよければ、それでいいのだが、他と違った味にしたいというのであれば、いろんな味を吟味する必要がある。

そのあたりのことは専門の人たちが話をしていくのだ。この作業も奥が深くて、すぐに決まってしまうこともあれば、半日ぐらい時間を要することもある。

あとで話を聞いたら、貫井さんも相当悩んだらしい。最終的に候補が2つ残り、そのどちらにしようかと迷ったらしいのだ。そこで夏目さんが一言アドバイスしたらしい。

「自分の舌を信じて、お好きな方にしたらいかがですか?」

傍で見ていたユカリさんは何も口を挟まなかったようだ。

最終的に貫井さんが選んだのは、あえてオーソドックスな豆だった。苦味、酸味、渋み、旨みが総合的にバランスがとれた豆だった。静岡県内でその豆を使っている店はないそうだ。それは大きな賭けでもあった。ホームランか三振かという感じだ。

ホテルには全国から、たくさんの人たちが集まってくる。決して、地域住民だけが相手ではないのだ。貫井さんはそれを計算して、その豆を選んだのだ。

貫井さんのテイストチェックは2時間ほどで終わった。そのあとは、ユカリさんと夏目さんと貫井さんの三人で外食に出かけた。私たちも浜松に行ったときウナギを奢ってもらったので、それは当然のおもてなしだ。

連れて行ったのは、会社近くの有名なお寿司屋さんだった。私も一度だけ連れてってもらったことがあるが、味はピカイチだ。

これもあとでユカリさんから聞いた話だが、夏目さんと貫井さんはとても馬が合うようで、すぐに携帯番号の交換をしたそうだ。ほとんどユカリさんそっちのけで、二人は盛り上がっていたらしい。

その夜、夏目さんから電話が入った。

「お疲れ様です。どうしたんですか?」

「うん、今日、貫井さんと会ったんだけど……」

「ああ、そうでしたよね」

私はわざと興味無さそうな振りをした。

「うん、それでちょっと聞きたいんだけど」

「なんですか?」

「彩ちゃんと貫井さんて、何でもないんだよね?」

「え? どういうことですか?」

「だからね、その、仕事以外にプライベートで会ってるとか、特別な感情を持ってるとか、そういうのは……」

「ないですよ。彼女とはあれから会ってませんし、連絡も取ってません。それがどうかしましたか?」

「ああ、そう。いいのいいの。ちょっと気になっただけ。ごめんね、遅くに」

それだけ言って、夏目さんは電話を切ってしまった。私はにんまりとした。これは……焼肉が近いぞ。

私は早速、ユカリさんに電話して報告した。

「やっぱりね。私もそれは感じたわ。あの二人、絶対怪しいわ」

「だから言ったじゃないですか」

「あーん、悔しい」

「ごちそうさまでーす。美味しい店検索しときますね」

そして、何日か過ぎたとき、私はなにげに夏目さんに訊いてみた。

「貫井さんとは連絡取り合ってるんですか?」

私は仕事のことで、というつもりで訊いた。

「うん、たまにLINEでね」

曖昧な言い方だ。

「あの人も、結構、楽しい人ですよね?」

「そうね。話し好きみたいだし」

「二人で食事したり、飲みに行ったりしないんですか?」

「だって東京と浜松だもん、頻繁には会えないわよ」

確かにそれは言える。確実に会っているのは貫井さんがテイストチェックで上京したときだ。

え? まさか……初対面でいきなり!?

って、それはないわよね。

でも、夏目さんと貫井さんが会って、エッチしているという確証を掴まなければ、焼肉にありつけない。何かいい方法はないだろうか?

そうだ、いい手がある。もうこれしかない。

「あ、ねえ、夏目さん」

「うん?」

「また、飲みに行きませんか?」

夏目さん、すぐには反応せずに、私の顔をじっと見てきた。そしてにやける。

「なーにぃ? また私のおっぱいが触りたくなったの?」

「そんなんじゃないですよ。夏目さんと飲みに行くと楽しいからですよ」

「いいけど、給料日前だから、あんまりお金ないよ」

「今度は私が奢りますから」

「そんなこと言って、ベロンベロンに酔ったら、結局私が払うことになるじゃん」

「この間はすいませんでした。今度は大丈夫です。もう飲みませんから」

半信半疑で夏目さんは私を睨んだ。

「じゃあ、いいけど。いつ行くの?」

「今日とか、大丈夫ですか? 前回のお店で」

「いいわよ」

深呼吸でもするように、大きく息を吸い込んでから、夏目さんは言った。

定時を迎えて、仕事を終えた私と夏目さんは早速、前回と同じ居酒屋に足を運んだ。

個室の部屋に通されて、私たちは飲み物と食べ物を注文した。もちろん私はウーロン茶だ。今日は呑む気はない。

今日、夏目さんと二人で飲みに行くことはユカリさんに報告してある。黙って飲みに行くと、またユカリさんが拗ねるからだ。

「貫井さんのテイストチェック、どうでしたか?」

まずは仕事の話から入るのが無難だ。

「うん、かなり迷ってたみたいだけどね。結局、一番無難なやつに決まったわ」

「ああ、関東圏内で使われてるやつですね」

「そうそう。それより何? また何か悩み?」

「いいえ、今日はそれ系じゃないです。前回が楽しかったから、また飲みたくなっただけですよ」

夏目さんはまんざらでもないように嬉しそうに微笑んだ。

料理が運ばれてくるにつれて、話も盛り上がってくる。

「ねえ、そういえばさ、あ、でも……これ言っちゃまずいかな~」

思わぜぶりに夏目さんが目を輝かせて言った。

「なんですか? 面白い話ですか?」

「うん、面白いと言えば面白いけど……」

余計に聞きたくなる。

「なんですか? 教えてください」

「絶対、誰にも言っちゃだめよ」

人差し指を口にあてて、夏目さんは言った。

「絶対、誰にも言いません」

「あのね、登坂さんと荒川さん、出来てるみたいなの」

「……は? どういうことですか?」

「だから……私ね、見ちゃったのよ。先週の木曜日だったかな、私と登坂さんと荒川さんが残業してたときだったけど」

「うんうん」

「私、仕事切り上げて先に帰ったのよ。でね、駅近くまで行って、携帯忘れたのに気付いたの。会社に。それでオフィスに戻ってみたら、二人がいないのよ」

「二人も帰ったんじゃないですか?」

「私もそう思ったんだけど、それにしては電器が点けっぱなしだし、パソコンも付いたままだし。どうも様子がおかしいのよ。で、ミーティングルームのブラインドが下りてたの」

私たちのオフィスには、ミーティングルームがあって、そこはガラス張りで出来ており、外から見える構造のなっているのだ。それを見られなくするために、ガラスの上にブラインドがある。見られたくなければ、そのブラインドを下ろすのだが、そういう状況はあまりないので、普段はブラインドは開けたままだ。

「はい」

「なんだか様子がおかしいと思って、そっと近づいて、ドアを少しだけ開けて、中を覗いたのよ。そしたら……」

「なんですか? 変なとこで切らないでください」

「登坂さんと荒川さんが抱き合ってキスしてたの」

「ええ! マジですか?」

夏目さんは頷いた。私は驚いて両手で口を塞いだ。

「もう、びっくりしたわよ。ほら、あの二人ってさ、今、横浜に出来る新店舗のオープンイベントを企画中じゃない。それで二人で仕事をするうちに……」

「変な方向に行っちゃったってことですか?」

「だと思う」

「へー、そうなんですか」

これは新情報だ。早速ユカリさんに報告だ。確かにあの二人に、ユカリさんがその仕事を振ったのを私も見ている。

「絶対、誰にも内緒よ」

夏目さんは改めて言った。そして、「ちょっとトイレ」と言って、夏目さんは部屋を出て行った。

今だ! 今回の私の任務を遂行するときが来た。登坂さんと荒川さんの話は興味深いが、今はどうでもいい。こちらを優先させなければ。

私はテーブルに置いたままの夏目さんの携帯を手に取った。急いでLINEを開いた。貫井さんとのやりとりがあるはずだ。私はそれを見た。すると、こんなやりとりを見つけた。

「昨日はお世話になりました」

これは貫井さんがテイストチェックに来たときのことだ。

「いいえ、こちらこそ。リエさんに会えて嬉しかったです」

もうリエさんと呼んでいるのか。

「あなたの唇の感触がまだ残っています」

「強引にキスしちゃってごめんね」

「いえ、嬉しかったです」

「また、すぐに会いたいです」

「今度のお休みに浜松に行きますね」

「はい、お待ちしています」

私はそのやりとりを自分のスマホで撮影した。これが何よりの証拠だ。ここまでしていいのかな? と思ったけど、こうしないと賭けが成立しない。この会話だと、夏目さんと貫井さんは、出逢ったその日にキスしたということになる。

テイストチェックの後で、二人でゴハンでも食べに行ったのだろうか。そして、ほろ酔い気分になったところで……。というのが私の推測だ。

もしかしたら、この店かも知れない。ここなら人目を気にせずキスぐらいならできる。

会っていきなりなんて、すごい。夏目さんも手が早い。私は夏目さんのスマホを元に戻して、何食わぬ顔をした。


つづく・・・




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# by sousaku63 | 2017-03-20 11:40 | ポジティブプラス | Comments(0)

ポジティブプラス 14

どういう意味? 鳥居さんの部屋に行くって……。

絶対アレしかないよね。どうしよう……。貫井さんのときと同様、心は躊躇してるが、体は欲しがっている。でも、それをしてしまうと、ユカリさんを裏切ることになる。「私を信じて」とカッコいいことを言ってしまった手前、 裏切るわけにはいかない。

そのときだった。突然天使のような声が聞こえた。

「ママ~、オシッコ」

私と鳥居さんは咄嗟に振り向いた。傍に真奈ちゃんが立っていた。

「マナちゃん……! いつからいたの?」

鳥居さんは慌てて、私の上から体を起こした。

「オシッコ」

と、また言った。とにかく鳥居さんは真奈ちゃんをトイレに連れて行った。5歳の真奈ちゃんには、私たちがしていたことに興味はないようだ。オシッコを漏らしてはいけないと、そればかりだった。

よかったのか、悪かったのか。絶妙のタイミングだ。

すっかり気分をそがれてしまった私たちは、そのまま床に就いた。

翌朝、お店に向かう車の中で、鳥居さんは言った。

「昨日は、ごめんなさい。私どうかしてたみたい」

「何言ってるんですか、ただの悪ふざけじゃないですか。気にしていませんよ」

本当は真奈ちゃんに救われたのかも知れない。あのまま続けていたら、きっと大変なことになっていたと思う。私はユカリさんを裏切ったという傷を負い、鳥居さんも私との関係に溺れてしまったら、仕事どころではなくなってしまう。あれでよかったのだ。

「マナの小さな手を握ったら、私、なにやってんだろう、って思ったの。一番愛してあげなきゃいけない子を放っといて」

「そうですよ。私なんか抱く暇があったら、マナちゃんを抱いてあげなきゃ」

「うん、そう思った」

鳥居さん、晴れやかな笑顔を浮かべた。

「さあ、今日も元気に頑張りますよ!」

お店のスタッフの顔つきも変わってきた。鳥居店長が元気になったお陰で、皆、生き生きしてきた。私が来る前とはまったく違う。時おり、スタッフの前でジョークも言うようになってきた。職場がいつも明るい。

もう、私がいなくても大丈夫だ。このお店のこれからが楽しみだ。お客様に対する接客もばっちりだ。元気のない木村君もいい笑顔になった。

とはいえ、私も何か企画を考えなければならなかった。でなければ、なんのために一週間お店で働いたのか分からない。もはやこのお店は企画など必要もないが、シンプルにスクラッチキャンペーンをすることにした。

お客様にスクラッチカードを配り、当てた商品をお渡しするという単純なものだ。これならお客様も分かりやすい。全く新しいことを考えると、スタッフの負担も大きくなる。

そんな感じで私の一週間は、あっという間に過ぎてしまった。

「ええ? 送別会ですか?」

「そう、みんなが是非やりたいんだって」

鳥居店長が言った。

「でも、一週間しかいなかったのに、申し訳ないですよ」

本心は嬉しかった。そんなことやってもらうのは初めてなのだ。

「そんなの関係ないわよ。もうお店も予約してあるんだって」

「そうなんですか。わかりました」

お店が予約してあるなら、行かないわけにはいかない。私は遅番のスタッフに丁重に挨拶して店を出た。

送別会は早番のスタッフだけで、盛大に盛り上がった。もちろん鳥居店長も参加している。

途中、トイレで鳥居店長にこっそり言われた。

「ねえ、あの夜のことは、誰にも言わないでね」

「当たり前ですよ、言えるわけないじゃないですか。私と鳥居さんがレズだなんて」

私がジョークを言ったら、鳥居さんはオバサンのように、手で口を押えて、私の肩をポンと叩いた。

「鳥居さん、寂しいなら、誰かいい人を見つけた方がいいですよ」

「うん、そうする」

次の日から、私は本社営業企画部に出勤した。

「おはようございまーす」

私が入っていくと、皆が元気に挨拶してくれた。

「どうだった? 久しぶりの店舗営業は?」

夏目さんが言った。

「コーヒー飲み過ぎたんじゃないの?」

と坂上君が冷やかす。

「バーカ、お前とは違うよ」

上田さんがフォローしてくれた。いつもの光景だ。この雰囲気が好きなのだ。みんながジョークを言える空気。これが大事だと思う。

「おはよう、花沢さん」

ユカリさんが出勤してきて、私の後ろから声をかけた。当然、皆の前では花沢さんと呼ぶ。

「結局、スクラッチにしたんだって? 一週間も視察した割には普通ね。なんのヒネリもないのはどういうわけかしら?」

ユカリさんはそう言いながら、デスクに着いた。嫌味っぽい口調だ。でも、怒ってなどいない。私をからかっているだけだ。すでに鳥居店長から聞いて、全てを知っているはずだ。私の貢献を。

「部長、お言葉を返すようですが、売上を上げればいいんですよね? 活気あふれるお店と、活気のないお店では、同じスクラッチでも、その効果は全く違うと思います。一か月後を見ていてください」

「あら、大した自信ね。わかったわ、楽しみにしてるわよ」

ユカリさんは笑みを浮かべた。

その夜、私はもちろんユカリさんのマンションに行った。私を部屋に入れると、ユカリさんはいきなりキスしてきた。

「一週間も会えなかったのよ。寂しかったわ」

「しょうがないじゃないですか。私をあの店に指名したのは、ユカリさんなんですよ」

「そうだけど……一週間もお店に出るなんて思わなかったわよ。勝手に決めちゃって」

ユカリさんは口を尖らせた。ちょっと拗ねているみたいだ。でも、それが可愛い。12歳も年上だとは思えない。

「ごめんなさい。でも、これであのお店は大丈夫ですから、ユカリさんの株も上がるでしょ」

チュっと私はキスをした。

「まさか鳥居ちゃんと、こんなことしてないでしょうね」

「まさか、なに言ってるんですか。実家にお世話になってたんですよ。お母さんも子供さんもいたんですよ。できるわけないじゃないですか」

私は後ろめたさを感じながら言った。しかし、あれは鳥居さんに強引にされたのだ。私の意志ではない。

「じゃ、いいけど……今日は泊まってって」

「ええ?」

「やだ、帰さない。一週間も会えなかったんだもん、朝まで一緒にいて」

「わかりました」

こんな子供みたいな姿を、同じ部署の皆は想像もつかないだろう。これを知っているのは私だけだ。会社とプライベートを見事に使い分けているのだから、大したものだと思う。ユカリさんは以前よりも優しくなったが、仕事では厳しいことをいう時もある。まあ、それは上司だから仕方ないが。

「で? エッチの仕方わかりましたか?」

ユカリさんは首を振った。

「アヤが調べてくれるんじゃないの?」

調べるって、あれって調べるもんなの?

「いえ、まだ調べてません。今から観ましょうか? せっかくの機会だから。パソコン立ち上げていいですか?」

「う、うん、いいけど……」

私は机の上のパソコンを立ち上げた。

「ネットで観られるの?」

「と、思いますよ」

私はまず、レズ動画で検索した。いろいろ出た来た検索結果の中から、適当なものを選んでクリックしてみた。

トップページからエッチな画像が出てきた。無料動画と書いてある。下にスクロールしていくと、いろいろあるみたいだ。

私は適当に、その中の一つをクリックした。

再生ボタンをクリックする。可愛い感じの女の子が二人、キャミソール姿で見つめ合っている。ベッドの上だ。いきなりゾクゾクする。

「うゎ、出た」

ユカリさんは興味津々だ。私も人のことは言えないが。二人でしばらく無言で画面に見入った。

画面の中の女の子たちは、普通に会話をしている。そしてキスする場面になり、恥ずかしそうに笑いながら、少しずつ顔を近づけていく。

チュ、チュとする。ここまでは普通だ。私とユカリさんもキスはする。問題はこの先だ。

二人とも徐々に興奮してきて、やがて舌を絡め合って、濃厚なキスを始めた。

横目で見ると、ユカリさんは真剣に見ている。

「ここまでは私たちもしますよね」

「うん」

画面に見入ったまま、ユカリさんは生返事をした。私は恥ずかしくなって、ついつい会話を挟んでしまった。空気を読めていないのだろうか?

一人の女の子が首筋に舌を使いだした。もう一人の子は、目を閉じて恍惚の表情を浮かべている。そうしているうちに、キャミソールの肩紐を下に下げて、乳首にキスをし出した。されている女の子は「あん」と声を上げる。

「こんなことするのね……」

ユカリさんは言った。私は無言だ。

「いやだ、恥ずかしい、赤面しちゃう」

ユカリさんは両手を顔にあてて、目だけは画面を見ていた。

攻めている女の子が、もう一人の子のショーツの中に手を入れた。なにやら中で、モゴモゴと動かしている。それと同時に声も大きくなってくる。

「いやーすごい、何してるのあれ」

「女の子でも、こんなことするんですね」

「することは男と変わらないわね」

「女の子がするからいいんですよ、きっと」

二人でじっと見ていると、やがて攻めの女の子はショーツを脱がせて、股間を舐め始めた。

「すごい、あんなことしてる。いいの? ここまで見せても。すごいのね、今のエッチビデオって。初めて観たわ」

今の、ということは、昔のは観たことがあるのだろうか?

「私もです。気持ちいいんですかね」

「うーん、どうなんだろう」

私はじっとユカリさんを見つめた。

「ユカリさん、して欲しいと思います?」

画面を指さして、私は言った。

「ちょっと、そういうこと訊くの? 言えないわよ、そんなこと」

「ですよね」

結局、その動画は30分ほどで終わった。一人の女の子があるとこまで攻めると、攻守交替して、お互いに感じ合う。そして最後は股間を合わせて、腰を振って、イってしまった。私たちは、「きゃ」とか「すごい」を言い合っていた。

女性同士の上司と部下がエッチ動画を観ているなんて、そうはないだろう。動画はまだまだ他にもいろいろある。女子高生同士とか、女医と看護師。先生と生徒etc。

「次、これ観よ」

と言って、ユカリさんも結構ハマってきたみたいだ。そして勝手に自分で再生ボタンを押す。そんな時間を過ごして、気が付いたら12時を回っていた。明日も仕事だ。早く寝た方がいいのに。

「どうですか? 少しは勉強になりましたか?」

「うん、まあね」

「してみます?」

「え?」

「え、じゃないですよ。なんのために観たんですか? しなきゃ意味ないじゃないですか」

「そう……よね」

なんだかユカリさん、気が乗らないみたいだ。あまりにもグロテスクな画像で、ちょっと引いてしまったのだろうか?

「したくないですか? 私とじゃ」

「そんなことないわよ! なに言ってるの」

「じゃ、とりあえずベッドに行きましょ」

私は立ち上がって、ユカリさんの手を掴んで、寝室へ行った。

ベッドの横に立つと、私は着ている物を脱ぎ始めた。

「ちょっと、アヤ……」

「何してるんですか。早く脱いでください。私だけじゃ恥ずかしいじゃないですか」

「あ、あ、うん」

ユカリさんは私に押されて、躊躇いがちにトレーナーを脱いだ。二人で、下着姿になると、ベッドに上がった。

あの動画の女の子たちのように、ベッドの上に座った。

「どうですか? 興奮します?」

私は顔をニヤつかせて言った。ユカリさんは恥ずかしそうに笑った。

「うん、やだ、恥ずかしい……」

ユカリさんはまた笑う。本当に恥ずかしそうだ。私だって死にそうに恥ずかしいのだ。

「ユカリさんの体、綺麗ですね」

「そんなに見ないで。アヤだって、綺麗じゃない」

「ありがとうございます。じゃ、キスしてみますか?」

「うん」

こうして改めてすると、本当に笑ってしまう。あの動画の女の子たちみたいだ。あれは単にヤラセじゃなかったんだ。本当にああなる。

キスしようとすると、なんだか可笑しくなってしまう。なかなかチューが出来ない。そして少しずつキスをする。まったく動画通りだった。

しばらくキスを続けていた。そうすると物足りなくなって、胸に手がいってしまう。私はユカリさんの胸を手のひらで、そっと掴んだ。

「気持ち、いいですか?」

胸を優しく揉みながら、私は訊いた。

「……うん」

ユカリさんはそう言って、恥ずかしそうに俯く。照れ笑いをしながら、私が胸をさするのを、じっと味わっている。

「気持ちいいですか?」

私はもう一度訊いた。恥ずかしそうにしているユカリさんを、少しからかってやりたくなった。私の手前、どんな顔をしていいか分からないでいる。曖昧な笑みを顔に張り付かせていた。

「うん、気持ちいいよ」

「まだ、照れてますよね。自分に素直になってください。感じてるなら感じてる顔を見せて、ユカリさん」

私も恥ずかしいが、ここは私がリードしないと先に進めないのだ。ユカリさんは頷いて、目を閉じた。私はユカリさんの胸を揉み続けた。

次第に、恍惚の表情を浮かべてくる。そうしているとユカリさんは言った。

「ねえ、横になろ」

座ったままでいるのが、疲れるみたいだ。私たちは掛布団をめくって、ベッドに横になった。

私はユカリさんを組み敷いて、改めてキスをした。今度はすぐに舌を絡める濃厚なキスになった。

「ビデオで観たこと、するね」

キスを中断して、私は言った。

「うん、して……」

今度は色っぽい声だ。ベッドに横になったら、リラックスしたのか、ユカリさんは遠慮なく自分をさらけ出した。私は首筋にキスをして、舌を這わせた。

するとユカリさんの口から、悩ましい声が吐かれた。こんな声は初めて聞く。ユカリさんが感じている光景は感動的だった。

思えば、あの厳しかったころ、ユカリさんとこんな風に肌を合わせるなんて、想像も出来なかった。私はこの人から逃げたいと思っていたのだ。大嫌いだった。なのにこんな風にして、愛撫をしている。本当に人生なんて、何が起こるか分からない。

資料室でユカリさんに探し物を頼まれたとき、私は、本心では嫌じゃなかったのではないだろうか? 自分でもよく解からないが、心のどこかでユカリさんに憧れていた自分がいたのかも知れない。

私がユカリさんの部署に配属されたのも、運命の出会いだったのではないだろうか? とさえ思えてくる。

ユカリさんの体は本当に白くて、柔らかくて、綺麗だった。私はその憧れていた美しい体を大事に愛撫していく。やっぱり、ユカリさんは他の女とは違う。貫井さんとも夏目さんとも、鳥居さんとも、ぜんぜん違う。比べ物にならない。別格だ。

私は首筋に愛撫を送りながら、胸元に移動してきた。バストの近くまでくると柔らかさが増した。背中に手を回して、ユカリさんのブラのホックを外した。肩紐を下ろしてカップをめくると、乳房が見えた。

私はまた感動を覚えた。


つづく・・・



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# by sousaku63 | 2017-03-17 10:35 | ポジティブプラス | Comments(0)

ポジティブプラス 13

15分ほど走ると、保育園の前に車が着いた。

やっぱり保育園だった。娘さんは5歳だそうだ。可愛い盛りだ。

車を降りて、私は鳥居さんに付いて行った。ちょうどお迎え時で、手を繋いだ親子があちこちに見られた。

いつもは鳥居さんのお母さんが、娘さんから見るとお祖母ちゃんが、お迎えに来るのだが、今日と明日、一泊二日の旅行に出ているらしい。それで急きょ、鳥居さんが早退して、娘さんをお迎えに来ることになったらしい。「まったくいい気なもんね」とお母さんのことを愚痴っていた。

お母さんは近所の寄り合いの人たちと楽しく伊豆まで行ったそうだ。

鳥居さんは離婚後、実家に戻り、お母さんと娘さんと三人で暮らしているそうだ。お父さんはすでに他界している。

保育室の前まで来ると先生に声をかけて、娘さんを呼んでもらった。真奈ちゃんというらしい。

帰る準備をして、保育室から真奈ちゃんが出てきた。お母さんに似て本当に可愛い子だった。

「マナ、このお姉ちゃんはね、ママのお友達なの。ご挨拶しなさい」

「こんにちわ」

大きな声で真奈ちゃんは言った。

「こんにちわ、マナちゃん。お姉ちゃんはね、アヤっていうの。よろしくね」

私はあまりにも可愛くて、鳥居さんの許可もとらずに、さっさと真奈ちゃんと手を繋いで、歩き出していた。鳥居さんは先生に挨拶をしてからあとをついてきた。

私と真奈ちゃんは後部座席に座った。鳥居さんは黙って車を運転している。

「ねえ、マナちゃん、お姉ちゃんと一緒に遊ぼうか。何して遊ぶ?」

「お歌うたう」

真奈ちゃんは言った。真奈ちゃんはその日保育園で習った歌を聞かせてくれた。懐かしい童謡だ。私の知っている歌なので一緒に歌った。鳥居さんはというと、黙ってにこやかな表情で、私たちを時おり、ルームミラーで見ていた。

鳥居さんと仕事の話をするために、強引に車に乗り込んだが、まったくそんな話はしていない。子供をあやしているだけだ。それでも鳥居さんは何も言わなかった。真奈ちゃんの前では母親の顔になっている。

「ねえ、スーパーに寄っていい?」

鳥居さんが言った。私にはなんの異存もない。

帰り道のスーパーに行くと、買い物かごを持って鳥居さんは言った。

「ねえ、夕飯一緒に食べてって」

「いいんですか?」

「今日は母もいないし、この子と二人じゃ味気ないから。マナもあなたに懐いてるし」

「わかりました。じゃあお邪魔します」

ということで、私も一緒に夕飯の買い出しだ。私は真奈ちゃんと手を繋いで、店内をまわった。

真奈ちゃんはお菓子のコーナーに入ると、私の手を離して、好きな物を買い物かごに入れていった。

「マナちゃん、1コだけのお約束でしょ」

「やだ、これも欲しい」

「もう、しょうがないわね。いつもこうなのよ」

苦笑いしながら私に言った。

スーパーで買い物を終え、私は鳥居さんのお宅にお邪魔した。一軒家の古いお宅だった。鳥居さんの実家だ。

今日のメニューは定番のカレーライスだった。真奈ちゃんも好きだし、私も好きだった。

鳥居さんが作っている間、私は真奈ちゃんと遊んでいた。

真奈ちゃんと遊んでいると、私の携帯が鳴った。ユカリさんからだった。

「はい、今、鳥居店長の家に来てます」

私は鳥居さんの方をチラリと見やった。鳥居さんもこちらを見た。その日の報告をして、鳥居店長と替わった。

「鳥居さん、堂島部長です」

鳥居さんは携帯を耳にあてた。

「もしもし、お疲れさま。堂島ちゃん、なんなのこの子」

この子というのは、私のことだ。

「うちの娘を手なずけて、すっかり居座ってるんだけど」

そう言っている鳥居さんはとても楽しそうだった。

「ホントに変わってる子よね」

昔を懐かしむように、ユカリさんと少し話し込んでいた。私は聞き耳を立てながら、真奈ちゃんと遊んだ。傍で聞いていると、ユカリさんとは仲が良いようだった。

「いただきまーす!」

三人で食卓を囲み、鳥居さんが作ったカレーライスを食べ始めた。

「おいしいね、マナちゃん」

小さな子供と食事をするなんて、初めてかも知れない。いや、初めてだ。私は真奈ちゃんが可愛くて仕方なかった。

「マナのあんなに楽しそうな顔、久しぶりに見たわ。ありがとうアヤさん」

夜の9時を過ぎると、遊び疲れたのか、真奈ちゃんは眠ってしまった。今は子供部屋で寝ている。

いつもは仕事に追われて、真奈ちゃんと遊んでやることも出来ないらしい。鳥居さんも本社勤務していた頃は、夕方には仕事を終えて、真奈ちゃんと一緒にいられたらしいが、店舗に回されてからは、それがままならないらしい。

お店は深夜11時まで営業だ。鳥居さんは早番も遅番もやらなければならない。しかも、早番でもすぐに帰ることは出来ない。いつも帰宅は9時を回る。それでは真奈ちゃんも可愛そうだ。

遅番だと、帰りは日付を回る。帰ったら真奈ちゃんは寝ている。

そんな生活では本当に大変だ。本社に戻して欲しいと希望しても、「シングルマザーはあなただけじゃないから」と、言われてしまうらしい。そう言われると何も言えなくなる。身もふたもない。

まだ幼い真奈ちゃんを抱えて、仕事を辞めるわけにもいかない。おまけに鳥居さんのお母さんは高血圧で、あまり無理をさせられないという。鳥居さんに笑顔がなくなるのも分かる気がする。

いろんなものを背負っているのだ。そんな鳥居さんにお店で愛想よくしろという方が無理だ。

「そうですか。そんな状態なんですね。今、誰かいい人はいないんですか?」

鳥居さんは力なく首を振った。

「無理よ、そんな余裕ないわ。出会いもないし、こんな子持ちのオバサンじゃ誰も振り向いてくれないわよ。それにもう男はたくさん」

あー、ネガティブだ。

「そうなんですか。大変なんですね」

「もう……本当に誰かに助けてほしい……」

鳥居さんは頭を抱えて、弱音を吐いた。

「大丈夫ですか? 無理してるんじゃないですか?」

「ごめんなさい。いろいろ愚痴こぼしちゃって。誰かに聞いてほしくて」

「わかりますよ。私でよかったら聞きますから、言ってください」

話を聞くと、鳥居さんも本社から店舗に回されたときには、心機一転頑張ろうと思っていたらしい。組織に属する人間なんだから、行けと言われたら行くしかない。しかし、売上を上げると言うことは、考えていたほど簡単なことではなかったのだ。

数字が前年度を下回るにつれて、プレッシャーが大きくなる。それにプラスして家庭のことも手を抜けない。いっぱいいっぱいなのだ。

「鳥居さん、私、一週間ほどお店に入っていいですか? いい企画を考えるには、そのお店のことを知らなければ名案も浮かびません」

「ええ? そりゃ人手が足りないから、来てくれたら嬉しいけど……そんなこと出来るの?」

「堂島部長に頼んでみます。一週間の視察ということで」

言いながら私はバッグから携帯を取り出した。

「お疲れ様です。花沢です。部長、私のわがまま聞いていただきたいんですが、明日から一週間、鳥居さんのお店に入ってよろしいですか?」

翌日、朝一で私は一旦アパートに戻り、準備をして、再び鳥居さんの店に行った。結局昼からの出勤になった。

鳥居店長は一度、全員を集めて、みんなの前で私を紹介してくれた。

「本社営業企画部から勉強のために来ました、花沢と申します。店舗の経験は一年ほどあります。このお店のことを知って、いろんな企画を考えたいと思ってます。よろしくお願いします」

みんなは口々に「よろしくお願いします」と言った。が、元気がない。

その日は平日とあって、人員は少なめだ。私を含めて5人のチームだった。夕方4時からまた遅番のアルバイトが来ることになっている。昨日、私が話を聞いたアルバイトの男の子も一緒だった。相変わらず不愛想だ。

「木村くん、元気ないよ。元気出していこう」

その男の子は木村君という。私が声をかけると、また頷くように返事をした。

「返事は、ハイ、でしょ」

ちょっとウザいかな、とも思ったが、お店のためでもあり、本人のためでもある。木村君はあらためて「ハイ」と言った。私は冗談交じりに「よくできました」と言ってあげた。

「とにかく皆、声出していこう!」

と私は一人で張り切った。

明るく振る舞うのが今、私に出来ることだった。その明るさが皆に浸透してくれればいいと思っていた。お客さんが来ると、率先して私は注文を受けた。

「ホット、ワン。アイスコーヒー、ワン。お願いしまーす!」

私は精力的に動いた。他のアルバイトの子たちも、私に連られて、だんだんと声が出て、フロアが活気づいてきた。あの木村君もいい笑顔が出来るようになった。

夕方5時になると、早番の子が帰っていく。

「お疲れ様でした!」

みんな声が大きい。花沢効果が出てきたようだ。一日目にしては上出来だった。もちろん鳥居店長とも一緒に仕事をした。心なしか鳥居店長も笑顔が増えてきた。

私は8時まで仕事をした。鳥居店長は本来6時までだが、私に付き合って、8時まで残ってくれた。

「今日は疲れたでしょ?」

帰りの車の中で、鳥居さんが言った。

「久しぶりだったから、ちょっと疲れましたけど大丈夫です」

私は一週間、鳥居さんの家に置いてもらうことになっていた。自分のアパートから通うには、ちょっと遠すぎる。

「花沢さんが来てくれて、皆生き生きしてきたわ」

「そうですか。それはよかったです」

「やっぱり私ってダメね、人を使えるようなタイプじゃないのよ。口うるさく言うだけで、皆に嫌われちゃってるわ」

「そんなことないですよ。会社だって、鳥居さんなら大丈夫だと思ったから、店舗を任せたんじゃないですか?」

私がそう言うと、鳥居さんは首を振った。

「違うのよ、本社では私がウザいのよ。辞めさせたいのよ。女は長く会社にいると嫌われるのよ」

ユカリさんも同じようなことを言っていた。

「じゃあ、なおさら売上を上げて、見返してやりましょうよ。鳥居店長ならできますよ」

鳥居さんと一緒に帰宅すると、お母さんが美味しい手料理を作って待っていてくれた。

真奈ちゃんはすでに寝ていた。

「すいません、厄介者が一人増えちゃって」

私はお母さんに詫びた。

「いいのよ、若い人とお話しできて、私も楽しいから」

その日のメニューは肉じゃがだった。この味が絶品だった。私は「美味しい」を連発した。

「鳥居さんはいつもこんなに美味しいもの食べてるんですか。幸せですよ。私なんかコンビニのお弁当ばかりだから味気なくて」

そう言うと、鳥居さんもお母さんもにっこりと笑った。

食事を終えると、交代でお風呂に入って、お母さんは自分の部屋に行ってしまった。

その後は、前日と同じように、私と鳥居さんで女子トークの始まりだった。もうすっかり打ち解けたので、鳥居さんは昨日にも増して饒舌になった。

この人、意外に楽しい話を聞かせてくれる。ユカリさんの昔の話なんかは知らないことも多くて、私にとっては新鮮で、ありがたい情報だった。

「ああ、楽しいわ。こんな風に心置きなく何でも話せることないから、いいストレス発散になるわ」

「私も楽しいです。いい先輩に巡り合えて、たくさん面白い話を聞けたし。鳥居さん最初はちょっと怖かったですけど、話してみるとホントに楽しいですね」

「ごめん、よくないわよね。初対面でああいう態度。すいませんでした」

鳥居さんは私に頭をさげた。

「でも、なんだか不思議な人ね、アヤさんて。なんでも話せちゃうし、一緒にいて退屈しないっていうか、癒されるね。アヤさんの笑顔って」

「そうですか。ただ能天気なだけですよ。それはそうと、一つ訊きたいんですけど、どうして早番のときに遅くまで残ってるんですか? 6時までなんだから、すぐに帰ればいいのに。そうすればもっとマナちゃんといられるじゃないですか」

「そうなんだけどね。なんかお店が気になっちゃって」

「責任感からですか? 私は早く帰った方がいいと思いますよ。その方が他のスタッフもやりやすいと思います。店長にいつまでもいられると、気を遣うんですよ。好きとか嫌いとか関係なく」

私もそうだった。まだユカリさんが厳しかったころ、一緒に残業してると、気になってしょうがなかった。「部長、早く帰ってくれないかな」といつも思っていたのだ。

「鳥居さんはそんな経験ありませんでした? 上司がいつまでも残ってると、やり辛いなんてこと」

「あったわ。いつも思ってた。そっかぁ。そうよね」

「あとはスタッフを信じて、任せて帰りましょうよ。仕事も大事ですけど、真奈ちゃんはもっと大事でしょ」

「マナにずいぶん寂しい思いをさせてきたのね。私」

鳥居さんは涙ぐんだ。やがて顔を覆って嗚咽を洩らした。私はそんな鳥居さんに近づいて、そっと肩を抱き寄せた。鳥居さんは私の肩で泣いた。

「頑張らなきゃ、頑張らなきゃって、思って……それがいつも空回りして……でも、ぜんぜん結果が出なくて……どうしていいか分からなくて……」

「わかってますよ。鳥居さんは頑張り過ぎなんですよ。もっと肩の力を抜いていきましょ。あのお店は絶対に復活します」

「アヤさん、ずっといてくれないかな。あなたがいてくれないとダメみたい。スタッフも皆あなたに懐いてるし」

「何を情けないこと言ってるんですか。鳥居さんは私みたいなヒヨっ子とは違うんですよ。もっと自信を持って。ただ、スタッフにはもう少し感謝の気持ちを表した方がいいと思いますけど。ほら、言うじゃないですか、豚もおだてりゃ木に登るって」

鳥居さんは顔を緩めた。傍にあったティッシュで涙を拭いた。

「堂島部長はいつも、部下に感謝してますよ。ありがとうとお疲れさまは必ず言います。私たち豚ですから」

私のジョークに鳥居さんは良い笑顔を見せて笑ってくれた。そして今度は鳥居さんが私に抱き付いてきた。私たちは勢い余って、後ろに倒れた。キャっと私は声をあげた。

「アヤさん、大好き。あなたが来てくれてよかった」

「大丈夫ですよ。鳥居さんがちょっとシフトチェンジすれば、あの店はすぐに勢いを増しますよ」

鳥居さんは私の上に乗ったまま返事をした。ちょっと、重いんだけど……。

「アヤさん……」

なんだか鳥居さんの声のトーンが変わった気がする。甘い色を含んでいる。

え? ちょっと待って。にわかに雰囲気がおかしいわ。鳥居さん、私の上からどこうとしない。

「なんだか変な気持ちなの……」

「え、どうしちゃったんですか?」

鳥居さんは上から私の顔をじっと見降ろした。私も視線を逸らせずにいる。二人で目を見つめ合った。

心臓がドキドキしてきた。

「好きになっちゃったみたい。アヤさんのこと」

「ええ?」

はっきり言われたのは初めてだ。鳥居さんの髪が揺れた。そのまま顔を近づけてきた。鳥居さんの唇が私の唇に重ねられた。私はあっけにとられて、目を開けたままでいる。

なにげにキスを赦してしまった。でも、ここは拒否してはいけない気がした。ユカリさんと何度もしているので、女性とのキスは慣れている。鳥居さんがその場の雰囲気でキスをしたいなら、そのままにしておこう。それ以上はダメだが。

鳥居さんは情熱的にキスを続けている。私も観念して目を閉じた。だんだんと鳥居さんの吐息が激しくなってきた。

ヤバい……、私も変な気分になってきた。

「アヤさん、私の部屋に行こう……」

鳥居さんが小声で私の耳に囁いた。


つづく・・・


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# by sousaku63 | 2017-03-15 09:48 | ポジティブプラス | Comments(0)

ポジティブプラス 12

夏目さんと飲みに行ってから、一週間が過ぎた。

あれからユカリさんとはプライベートで会っていない。あんなことがあったので、会社での私に対する風当たりが強いかな? とも思ったが、意外とそうでもなかった。

仕事のことで話しかければ、普通に答えてくれるし、なんらトゲもない。周りの人から見ても至って普通に見えるだろう。ただしそれは飽くまでも会社内でのことだ。

プライベートでLINEを送っても、返事がない。既読スルーだった。それは結構辛い。

あの夜、殴られたことで、ある程度予想はしていたとはいえ、その状態はかなりキツイ。「もう一度、お話しできませんか?」「私はまだ、ユカリさんが好きです」「貫井さんとは本当に何でもありません」etc……。いろんなメッセージを送ってみたが、すべて結果は同じだった。

そのことについて、会社で話しかけても、「ここは会社よ、ケジメをつけてね」と言われて、話にならない。

一体どうすればいいのだ。心の中のモヤモヤは益々膨れ上がっていくだけだ。これでもう、ユカリさんとの関係は終わりなのか。少なくともユカリさんはそう思っているみたいだ。でも、それは一方的過ぎる。

それならそれで、最後に一度だけ話し合ってくれてもいいと思う。一度、話をして、ちゃんと別れを告げてほしい。そうすれば私の気持ちも吹っ切れると思う。いや、そんなに簡単に吹っ切れないと思うが、2,3日泣けば、徐々に気持ちも落ち着いてくると思う。

そういうことも何もなしに、ただ自然消滅を狙っているのは、いかがなものだろうか? 

ユカリさんの真意が解からない。これは夏目さんに相談しても、どうにもならないことだ。直接ユカリさんに尋ねて聞いてみないことには前に進まない。

ユカリさんの自宅は分かっている。私は思い切って、攻めることを選んだ。

仕事から帰って、夜の8時にユカリさんのマンションを訪ねた。

インターホンを鳴らす。

「はい、どちらさまでしょうか?」

警戒心を含んだユカリさんの声が聞こえた。

「お疲れ様です、アヤです」

「何の用?」

何の用って? 話は決まっているではないか。何事もなかったように取り繕うユカリさんに少し腹が立った。

「どうしても、話がしたくて、ほんの5分でいいです。お時間いただけないでしょうか?」

私がそういうと、会話が途切れた。少し間があって、玄関のドアチェーンが外された。

「どうぞ」

「お邪魔します」

ソファの部屋に私を通してくれたが、よそよそしい態度だった。ユカリさんは私にソファを勧めることもしないで、自分だけソファに座った。私は立ったままだ。

「ユカリさん……」

「どうしたの?」

白々しい言い方だった。

「ユカリさんの真意を聞かせてください。私とのこと、どう思っているんですか?」

「どうって?」

「もう、お付き合いは終わりなんですか? 私はまだユカリさんのことが好きだし、貫井さんとは本当に何もありません。そりゃ、ユカリさんに黙って、家に連れて来たことは軽率だったと思います。そのことについては謝ります。でも、ただのお友達でしかないんです。それ以上の感情はありません」

「わかってるわ!」

私はその場に座って、ユカリさんを見上げた。

「だったらどうして冷たくするんですか? 別れるなら別れるで、ちゃんと言って欲しいし、何にも言わないで、自然消滅なんてあんまりです。いくら上司でも、やっていいことと悪いことがあるんじゃないですか?」

「そうね。あなたの言う通りだわ。私が軽はずみだった。やっていいことと悪いことがあるわよね。上司として部下と関係を持つなんて、やってはいけないことよね」

ええ? そっち? 私はユカリさんの言ったことにショックを覚えた。私と関係を持ったことを後悔しているのだろうか。

「殴ってしまったことは謝るわ。ごめんなさい」

ユカリさんはお辞儀をするように頭を下げた。

「あれから私も考えたのよ。あなたの気持ちは嬉しいけど、やっぱりいけないこと。責任を取って退職しようかと思ってる」

辞める? なにそれ。予想外の展開だわ。

「どうせ私は、会社では厄介者だからね。いなくなっても誰も困らない」

「そんなことありません。部署の皆だって、活気が出てきたと思います。それはユカリさんがまとめ上げたからです。辞めるなら私が辞めます」

「なんであなたが辞めるのよ」

「先に言い寄ったのは私ですから。責任は私にあります」

「せっかくいい仕事をするようになってきたじゃない。ここでやめたら勿体ないわよ。あなたは出世の出来る人よ。お願いだから辞めるなんて言わないで」

「言いません。だからユカリさんも辞めないでください。ユカリさんが辞めたら、私、死にます」

ユカリさんは大きな溜め息をついた。

「アヤ……。私を困らせないで」

私は、ユカリさんににじり寄った。そして、ひざまくらをするようにユカリさんの膝に頭を置いた。

「ここへ来るまでは、別れてもいいと思ってました。ユカリさんがそうしたいなら。でも、やっぱりムリです。ユカリさんの顔を見たら、また好きになっちゃいました」

「このまま二人で関係を続けていって、その先に何があると思うの? 将来が不安にならない? 男女のカップルなら結婚出来るけど、女同士だとそれも出来ないのよ」

「そんなことありません。レズカップルだって結婚してる人たちはいます」

「いるけど、それはあまりにも非現実的でしょ。ほとんどのカップルは不安を抱えながら生きてるのよ」

ユカリさんの太ももに私は自分の手を滑らせた。いつ触ってもスベスベの素肌だった。この感触は私の心を捉えて離さなかった。夏目さんの胸に触ったが、比べ物にならないくらいに愛おしくなってくる。やっぱりユカリさんは特別だ。

私は立ち上がって、座っているユカリさんに跨り、上から見下ろした。自分から積極的にキスをした。ユカリさんは嫌がらずに答えてくれた。吐息を洩らしながら、夢中でキスをした。二人の間で舌が踊った。

「やっぱり別れるなんて、嫌だ」

私はユカリさんの顔を両手で挟んだ。ユカリさんは目を潤ませていた。

「アヤ、わかって。今ならまだ傷口が小さくて済む。このまま関係を続けたら、傷がどんどん大きくなるのよ。あなたが大事だから、傷つけたくないの。傷が小さいうちに別れましょ」

「自分の気持ちに嘘をついて生きていくのはもっと辛い。別れたらいつだって傷は大きいですよ。男と女なら幸せになれる保証があるんですか? 女同士なら幸せになれないんですか? そんなこと誰が決めたんですか?」

ユカリさんは涙をこぼして泣き続けている。

「私がユカリさんを支えます。絶対に裏切りません。一生に一度ぐらい身も心もボロボロになるような恋をしたいじゃないですか」

「本当にいいの? 口で言うほど楽じゃないわよ。覚悟はできてるの?」

「できてます。ユカリさんも覚悟を決めてください」

「アヤ……」

そう言うと、今度はユカリさんが唇を重ねてきた。

「私もムリみたい。アヤと別れるの」

「じゃあ、もう別れるなんて言いませんよね?」

「言わない。ごめん、変な言って」

「ユカリさん、私を信じてください。私もユカリさんを信じてます」

「うん。わかった」

ユカリさんは表情を緩ませた。やっといつもの笑顔に戻った。

「じゃあ、私帰りますね」

「泊まっていかないの?」

「5分の予定でしたから。25分もオーバーしちゃいました」

時計を確認して私は言った。

「帰らないで」

駄々っ子のような目でユカリさんは言った。

「帰ります。まだエッチの仕方知りませんから。女同士の」

そう言うとユカリさんは笑った。

「どうやらこの恋は、私の方がリードしないとダメみたいですね。会社ではあんなに優秀で尊敬してるのに、恋愛についてはからっきしダメみたいですね。この人は」

私はユカリさんの鼻を指でつついた。

「すいません」

ユカリさんは恥ずかしそうに言った。私はユカリさんの膝から降りて、身支度を整えて、玄関に向かった。

「アヤ、浜松の件、本当にごめんなさいね。私、つい感情的になってしまって」

「気にしないでください。ホント言うと、浜松まで行くの面倒くさいと思ってたんです。それに貫井さんには夏目さんの方が合ってると思います」

「どういう意味?」

「さあ、どういう意味でしょう。そのうちわかりますよ」

ユカリさんは本当に解からないみたいで、ポカンとしていた。貫井さんは夏目さんにくれてやるわ。

アパートに帰宅してから、私は試しに、ユカリさんにLINEを送った。

「ユカリさん、私のこと、愛してますか?」

「はい、愛してます」

すぐに返信が来た。

当たり前のことだが、これがないことが、どんなに苦しいか、今回改めて分かった。もう二度と軽率なことはしないと心に誓った。ユカリさんは、ああ見えて意外と子供だ。すぐに不安になるタイプだ。今後気を付けないと。

私は貫井さんにも連絡しておいた。浜松の件から外れたことを。

「ええ! なんで?」

貫井さんは驚いていた。

「うん、いろいろあってね。別の仕事に回されちゃったの」

「私のせい? 私があなたに近づきすぎたから、それで堂島部長に……」

「違うの。そうじゃないの。会社内でいろいろあってね。私では役不足みたいで、先輩の夏目さんに代えられちゃったの」

「そうなんだ。じゃあ、もう会えないの?」

貫井さんは不安そうに言った。あの夜、怒って帰ったように見えたが、私とのことを真剣に考えていたのかな? ひょっとして保留のこと、期待してるのだろうか。

「そんなことないよ。また、いつだって会えるじゃない」

「そうだね。LINEで繋がってるしね」

「夏目さんもいい人だよ。経験は豊富な人だから。きっと私よりもスムーズにいくと思う」

いろんな意味で。

「わかったわ。連絡ありがとう。また遊びに来てね」

最後は社交辞令で終わった。でもこれでいい。きっと貫井さんが夏目さんを見たら一目ぼれするはずだ。夏目さんへの引継ぎは終わっている。今度は夏目さんが部長と一緒に浜松へ行くことになる。

これで夏目さんと貫井さんがどうなるかは、今後の楽しみだ。

私はまた新たな仕事をユカリさんから与えられた。関東圏内に売上に伸び悩んでいる店舗があるようで、何か集客の期待できる企画を考えて欲しいということだった。

私はさっそく、その店に行ってみた。今回は私一人だ。ユカリさんが言うには、「あなたはもう一人で大丈夫」ということだった。そう言われると悪い気はしないが、でも最初から一人というのは不安だった。

私はそのお店へ行って、まずは店長の鳥居さんに会うことにした。鳥居由美(とりい ゆみ)店長は女性の店長だ。ユカリさんと同じ36歳で、旦那さんと離婚して、今はシングルマザーだそうだ。その情報はユカリさんから聞いた。以前はユカリさんと同じ部署で働いたことがあるそうだった。

「お忙しいところすみません。本社営業企画部から来ました花沢と申します」

鳥居店長に自己紹介をしたら、一瞬にして笑顔が消えた。私はいきなり不安を覚えた。

「花沢さん? 一人?」

「はい……」

「堂島ちゃんは?」

「いえ、今回は私が担当になったので、伺いましたが」

鳥居店長は露骨に不満そうな顔つきになった。なんなの、このガキんちょは。お前に何ができるんだ。と言いたげだった。最悪な第一印象だ。

私はとりあえず、狭い事務所に通された。鳥居店長は事務の椅子に座り、私は丸椅子に座った。笑顔を忘れたピエロというか、仏頂面が染みついているような顔つきだ。
とても曇ったような、どんよりとした空気が流れている。

「あなた、入社何年目?」

は! いきなり本題から外れた質問。

「3年目ですけど……」

「ずっと、営業企画部なの?」

「いえ、最初の1年は店舗営業に出てました。そのあと今の部署に配属になりました」

鳥居店長は大きな溜め息をついた。なんなの、その嫌そうな溜め息は。別に私はあんたの店なんか潰れたっていいのよ。あんたが助けを求めてきたらから、こうして足を運んだのに。何年この会社にいるかは知らないけど、それが人にものを頼むときの態度なの?

「もう! 堂島ちゃんが来ると思ったのに……」

そういうこと私の目の前で言う? なんて無神経な女。

「もし、なんでしたら、堂島部長に来るように言いましょうか?」

「いいわよ、あなたで」

面倒くさそうに、投げやりな言い方で言った。あなたで、って……腹立つわ。

「で? あなたは何をしてくれるの? 花沢さん」

嫌な言い方。

「ですから、それは……」

「いい企画を考えて、キャンペーンでもするつもり? そんなの、手を変え品を変え、さんざんやったわよ」

鳥居店長は棚に手を伸ばして、分厚いファイルを抜き取って、私の前に、ボンっと無造作に置いた。企画報告書と表紙に書かれている。要するにこれまで実施したイベントや、キャンペーンの報告書だ。それに対する売り上げも記録されている。

「拝見します」と言って、私はファイルを手に取って開いた。

「暇つぶしに見といてね。私はアルバイトを休憩に回さなきゃいけないから」

そう言って、鳥居店長は事務所を出て行った。アルバイトを休憩に入らせるということは、自分がカウンターに立つということだ。

誰もいなくなった事務所で私はそのファイルを見た。確かにいろんな企画をやっている。本当に手を変え品を変えという感じだ。これ以上、なにをやれというのだ。というほど、いろんな事をやっているが、売り上げは芳しくない。

この店の立地は決して悪くないのに、これだけの落ち込みというのは、何か原因があるのではないのか? 企画を考えたところで結果は見えているかも知れない。

そこへアルバイトらしい若い男の子が入ってきた。休憩をしに来たのだ。

「お疲れ様です。本社の花沢です」

私はその子に声を掛けた。男の子はぶっきらぼうに、頭をコクンと下げただけで、何も言わなかった。椅子に座るとスマホを取り出して目を落とした。

だーかーら、名前ぐらい名乗れよ。私が名乗ったんだから。という思いをぐっと堪えて私は話しかけた。

「あの、ちょっと聞きたいんですけど、鳥居店長っていつも、ああなの?」

「あ、はい、そうッスよ」

スマホを見つめたまま返事をした。こいつの教育も出来ていない。こんなアルバイトがよく務まるなと思った。

「私、今日初めて店長に会ったんだけど、ちょっと怖いよね」

「やりにくいっスね。女の子なんかビビッてますよ」

「前の店長はどうだったの?」

「さあ、オレはまだ入って一カ月しか経ってないんで、知らないっス。でもいい人だったって、みんな言ってますよ。今の店長になってから、辞める人が多くて、入れ替わりが激しいみたいっスね。オレも求人見て、来たんスけど、もう、辞めようかなって思ってます」

「それは鳥居店長が嫌で?」

男の子は頷いた。

「ねえ、鳥居店長はいつからここに来たの?」

「1年前からみたいっスよ。リーダーが言ってました」

私はそれを聞いて、売上実績を探した。棚からそれを抜き取って開いてみた。確かに1年前を境に、売り上げが下降してきている。

なんだそれ。鳥居店長に問題があんじゃん。そりゃ、あの態度じゃ、スタッフはやる気なくすわ。

私は、企画報告書と売上実績を棚に戻してフロアに出た。カウンターに立っている鳥居店長に、アイスカフェラテを注文した。鳥居店長はじっと私を見てから、作業に取り掛かった。

注文した品をトレイに乗せると、鳥居店長は言った。

「偵察のつもり? 味が落ちていないかって?」

「そんなんじゃありません。ただ喉が渇いたから」

私はお金を渡した。なんてネガティブなの。私と正反対だわ。

空いたテーブルでアイスカフェラテを飲んでいると、ダスターでテーブルを拭きながら、鳥居店長が近寄ってきた。

「私のせいだと思ってるんでしょ?」

傍に立って、鳥居店長は話しかけてきた。

「いえ、そんなこと……」

「顔に書いてあるわ。今の子に話を聞いたんでしょ」

あのアルバイトの男の子のことを言っているらしい。もちろんあの子から話を聞いたなんて言わない。

「あの、もう少し、鳥居店長とお話をしたいんですけど、お時間取れますか?」

「無理よ、夕方には娘を迎えに行かなきゃいけないし、そんな時間はないわ」

保育園にでも預けているのだろうか。

「あ、じゃあ私も一緒に行っていいですか? お迎え」

「ええ?」

私は、鳥居店長の仕事が終わるまで待ち、一緒に車に乗り込んだ。ほとんど強引だ。

「で、なんかいい考えが出たの?」

車をスタートさせると、鳥居店長が言った。

「は?」

「企画よ。うちの店の売上を上げるための」

「いえ、ないです」

私ははっきりと言った。

「はあ? あなた何しに来たの?」

「まあまあ。まずは店長との綿密な打ち合わせが必要じゃないですか。慌てないでください」

「そんなにのんびりしていられないわよ。上からは叩かれてるし、このままだと私も会社にいられなくなるし」

「え? そうなんですか?」

そのあとの言葉は、口を噤んで言わなかった。

車に乗ってからよく見ると、鳥居さんはなんとなく覇気がないというか、疲れが顔に出ている。パッと見、意地悪そうに見えるのだ。相当ストレスが溜まっているのか、負のオーラが出ている。そのままで店に出ているから、それがスタッフにも伝染しているのではないだろうか?

あまりオシャレには無頓着な感じで、「女性」として最低限の身だしなみが出来ていない感じだ。店の若いスタッフから嫌われるのはその辺りではないだろうか? 単に厳しいと言うことだけではないような気がする。

厳しいといえば、ユカリさんも以前は厳しかったが、ユカリさんの場合は、ちゃんと「女性」を意識していた。鳥居さんとの違いはそこだ。

お店の売上を上げるには、この店長の人間性を変えなければ、どんないい企画を出してもダメな気がする。


つづく・・・


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# by sousaku63 | 2017-03-13 10:31 | ポジティブプラス | Comments(0)